2018年9月24日

No.54 ついにジョージナカシマのラウンジアームチェアを買ってしまった!

(追記 2019.4.8)
今日、下の娘の高校入学式に出席したら校歌の作詞はなんとあの「長田弘」さんであった。
えーマジで!と思い調べたら・・・なんと、地元出身の方でtoskaniniが卒業した高校の大先輩であることがわかった。有名な詩人であり児童文学作家、随筆家、翻訳家だそう。ジョージナカシマのラウンジアームチェアの座り心地をエッセイに書いた人、としか認知しておらず不勉強を恥じる次第。
早速、氏の代表作である「読書から始まる」をアマゾンポチしたのだった。




(以上追記終わり)

ついに、というか、とうとう、というか、正直やらかしてしまった感がある。
そう、今猛烈に浮かれているし、高揚している。
買ってしまったからだ。

憧れのジョージ ナカシマのラウンジアームチェア(右アーム)を!
スパニッシュチェアも欲しいし、イームズチェアも欲しい、ストッケ(ヴァリエール)のグラビティもコルビジェのシェーズロングももちろん欲しい。
でも、一番欲しかったのはジョージナカシマなのである。



自宅リビングにて

銀座ショールームにはこんな感じで飾ってあった

George Nakashima, BlackWalnut Lounge Arm Chair, designed at 1962
Size W780 D650 H840 SH340
Weight 9.4kg


リビングの一角にあるオーディオコーナー。
休日の午後、木漏れ日を浴びながらラウンジアームに座る。
やがて、至福のひとときが訪れる。




西日を遮るために自宅の西側に一列に50cm間隔で植えたベニカナメ。本来、生垣用の樹種なのでどのお宅でも通常は2メートル程度の高さに刈り込むのだが、あえて剪定せず放置すること15年。
今や2階にまで届くほど茂り、窓から見える景色は、広葉樹の森の中のよう。高原の別荘テイストが感じられる我が家のお気に入りの場所である。

ここ以外にラウンジアームを据える場所はないと思った。




まず、フォルムが美しい。
建築家のデザインならではの構造のシンプルさ、無駄の無さ。
引き算の美である。
一見繊細で華奢なつくりに見えるが、構造計算がされていることに加え、しっかりとした板厚や木継ぎの精緻さからくる堅牢性、安定性は実用椅子として十分なものがある。
一生モノと言われる所以である。



「木匠」と呼ばれた日系2世であるジョージナカシマの作品は素材としての美しい木が主役である。
従来傷物として高級家具へ使用されることのなかったヒビ、節、割れ、縮みなどのある木材に新たな美と価値を見出した功績が世界的に有名である。
toskaniniはそこに、茶道具の世界において、初めてアンバランスや非対称、不揃い、余白、不完全さといったそれまで芸術や美の対極に扱われてきた要素に「詫び」「寂び」という新しい美を見出した千利休に通じる日本人の心を感じるのだ。
ナカシマの作品は木目、色や肌合いへのこだわりから、無塗装のオイルフィニッシュ。
座面はかなり大きく大人が胡座をかくことができるほど。
そして、この椅子の最大の特徴は、その座面よりも大きいアーム。肘置きでもあり、ちょっとしたテーブルにもなるブラックウォルナットの無垢板製である。
ウォルナットはクルミ科クルミ属の木でチーク、マホガニーと並び世界三大銘木の一つ。チョコレート色や濃紫色で重硬、肌目粗く木理はしばしば不規則になりその場合には化粧的価値が高まる。
胡桃=ウォルナット、山胡桃=ブラックウォルナットとのことだがどう違うのかはわからない。
無垢の木材は、経年変化により、通常は色が濃くなるのだが、ウォルナットは明るい茶系へと変化する珍しい樹種である。

こうして真上からアームを眺めると、色と木目が美しい。
そして形状をつぶさに観察すると、エンド部分の斜めカットの角度やトップ部分の右3分の2での折返しなど、そのすべてが座面形状とバランスが取れるよう厳密に計算されている。
アームの形状が前方に広いのは、スピンドル(背棒)の扇状の展開との整合だろう。

ちなみに、銀座のショールームで購入したのだが、アームの取り付けは左右どちらかを選べるだけでなく、在庫がある場合には、アームの板まで選んで製作してもらえる。




右から2番めだと木目は柾目スッキリ端正な仕上がりになるし、3番めだと外側が荒々しい耳付きで縮み杢の木目が美しい仕上がりとなる。
店員さんによれば、結局選べずに「職人さんにお任せ」とする人も多いのだそう。
確かに、これは難しい。

端正過ぎてはつまらないのでは?
でもワイルドに走りすぎると座面や脚とのバランスが崩れるのでは?
なら、その中間ぐらい・・・
でもそれだと中途半端で個性がなくなってしまうのでは?
以下無限ループ・・・

結局、無限ループに囚われたtoskaniniは、銀座ショールームにあった展示品が端正さとワイルドさのバランスが気に入ってそちらを購入したのである。
出来てから日が浅く、ショールームに飾り始めたばかりの作品とのこと。




そもそも一般に木材を素材とする製品はすべて木目が違うので「一点物」になるのだが、通常は、形(型)は同一で木目の出方だけが異なるだけ。
しかし、ジョージナカシマの家具は違う。
ラウンジアームの場合だと、上の写真のように素材の元の形状まで生かしてアームの板のデザインが椅子ごとに異なるから、その椅子は本当の意味で「世界で唯一の椅子」となる。

本当に本物の「オンリーワン」なのである。

確かに無垢板や木材の天然の形を生かした家具なんていろんな会社や人が作って売ってたりするから「形状の違う一点モノなんてありふれてるじゃん」と思う人もいるだろう。
だが、デザイナーズ家具の世界ではまず聞いたことがない。
通常はハンドメイドの一点物か、同じ形のマスプロダクツかのどちらか。
でもこれは、マスプロダクツの一点物。

桜製作所という工房によりナカシマの没後も設計と製法に忠実にクラフトされ、かつ二つと同じ物がこの世に存在しないという事実。
そこがすごいし、唯一無二の「コンセプト」+唯一無二の「設計」=ナカシマの家具、じゃないかな、と思う。




さて、我が家のアームは・・・
内側の色の濃い躍動感のある木目から外側に移るにしたがって目幅の詰まった明るい色の柾目へと表情が変わる。




外側はいわゆる耳付き。節くれの出っ張りと肌目・質感を生かし、削り(磨き)すぎない丁度良い荒々しさを醸し出している。手触りも上面に比べより天然に近い。



内側は直線にカットされているかと思いきや、身体に沿うようにわずかに、ほんのわずかに部分的なカーブが設けられている。ある方がブログで書いていたが製作のミスや狂いではなく、設計者の厳密なる意図の結果である。
つまりはデザイン上の必然。




斜めの3本の細い木組みによる最小の支え。3本とも角度が異なっているため水平を確保するには相当難しいのではないだろうか。
頑丈さが正直心配だったのだが、試しにテーブル面に上下左右と斜め方向からかなり力をかけても揺らいだりたわんだりぐらつくことは一切無かったので、日常の使用で強度不足を生じることはないように思う。




スピンドルの一番手元側の木はアームを上下に貫通し、アームが水平になる一点で両者が竹の細棒で固定されている。いわゆる「目釘」状態である。
製法はかなり謎い。竹の経が穴より大きければ入らないし、小さければ隙間ができる。しかし、現物は毛ほどの隙間すらなくかなり精緻な仕上がりを見せている。




座面やアームがブラックウォルナット材で濃色なのに対し、ハープの弦のような細長く美しい木のスピンドル(背棒)はタモ材である。
両者の色の対比が美しい。
タモは、薄い色と木目が美しく反発力が強い木材で、力を加えてもたわむ特性があり折れにくい。そのため野球のバットやボートのオールなど多くのスポーツ用品の材料としても使用されている。
座った時わずかにしなって背中を柔らかく受け止めてくれる優しさは形状と材質の双方に由来しているのだと思う。
鉋(かんな)目も職人の手仕事ぶりを伝えてくれる。
オイルフィニッシュされたタモは年を経るごとに少しづつ飴色に変わっていくのだそう。
今から楽しみである。




隙間なく座面にほぞ組されたスピンドルたちがしなやかに背中を包み込む。



スピンドルの終端は貫通の後、くさび留めで抜けやガタつきから守られる。





前後で取り付け角度の違う脚。
横から見ると分かるが前脚と中央のスピンドルの取り付け角度がほぼパラレルであり、安定さを出すため後脚を少し寝かせて後ろで床に接するよう設計されている。

シッティングハイトは34cm。
なので普通の椅子より10cmぐらい座面が低い。自然と脚を前に放り出して背もたれに身体を預けるような姿勢になり、リラックス感が増すよう仕組まれている。

若い頃からこの椅子に憧れを抱いていたが、正直なところ、座面も背当ても木製だと座り心地が固そうだし、痛そうだな、と思っていた。
もしかしてデザイン重視ではないかと疑ってもいた。
・・・なのでショールームで実際に座って満足できる座り心地が得られなかったら絶対に買わないと心に決めていた。
実用性のない椅子など、どれほどデザインが優れていようとも無価値に等しいのだから。

そして機会があり、ショールームで試座。
こればかりは座った者にしかわからない。
バイイングポリシーを大きく上回るかなりの高額だったが、その場で購入を決意。
一応、専用の座面クッションもオーダーしたのだが、使わなくても済むほど、柔らかい包まれ感がある。
思うに
 1 座面の材質と仕上げ(適度な摩擦)
 2 座面の広さ(姿勢の自由度)
 3 座面の低さ(低いポジション)
 4 座面の窪み(尻の形にフィット)
 5 座面の後傾角度(くつろげる姿勢)
 6 背当ての材質(適度なしなり)
 7 背当ての角度(くつろげる姿勢)
 8 背当ての数・配置(体圧の分散)
 9 アームの存在(肘で寄りかかれる)
絶妙の座り心地はこれら特徴のハーモニーであり、関数であり、多変数方程式である。
きっと、どれか一つでも欠ければちょっとデザインに凝ったただの木製椅子に成り下がってしまうのだろう。
だからこそ、桜製作所の職人さん達は、ナカシマの設計を忠実に再現することにこんなにもこだわるのかもしれない。

木製椅子なのに、柔らかく、どこも痛くなく、いつまでも座っていられる、むしろ木製椅子であることを感じさせないほどである。

似たような座り心地の感想を、長田弘さんの「読書からはじまる」や松浦弥太郎さんの「続・日々の100」など、有識者たちが自著で紹介しているので(一度でも座ったことのある人のうち)多くの人をデザインだけでなくその快適な座り心地で虜にしているんだろう。

ぼーっとただ座るもよし、アームに肘を付いて読書や思索にふけるもよし、胡座だってかける。
やはり道具は使ってナンボ、である。

 一つ 芸術品と称せるほどに美しいこと
 二つ 他を圧倒するほどに高機能であること
 三つ それを所有して心が躍ること

toskaniniのコレクトポリシーである「トリオンサティスファクションの法則」である。
ナカシマのラウンジアームチェアは久々に3つすべてを満たす数少ない最上級のマイ・コレクションズの仲間入りとなった。

ちなみに、マイ・コレクションズのほとんどは条件を2つしか満たせていないがどれも入手や使用にストーリーのある愛着の品々である。
美しい絵(条件1と3)とかレザーマンのナイフ(条件2と3)とか・・・

現在、ジョージナカシマの家具は、アメリカにあるナカシマの娘さん(ミラ ナカシマ)の工房、ナカシマが生前交流のあった高松の工房「桜製作所」の2箇所でしか制作されていない。
その中でもラウンジアームは最も人気のある椅子らしい。
所有者が死ぬまで手放さず、その後、子に引き継がれるからだろう中古品が市場に出回らないことでも有名な椅子である。ヤフオクに出品されるとあっという間に入札が殺到し、新品とまではいかないがかなりの高値で取引されている模様。

また、イームズチェアのように意匠権の切れるのを待って製作されるリプロダクト品(レプリカ)が数分の1の価格で販売されるのを待ったとしても、この椅子を制作する材料と熟練の手仕事を考えれば値段が下がることはまずあり得ない。(そもそも、忠実なレプリカの製作が可能か怪しい。)

結局、製作工房から直接に購入するしかなかったのだが、結果は大満足である。


最後にオーディオコーナーの紹介を(笑)




CD kenwood DPF-7002
 (バブル期の名機として有名。1個8,000円のバーブラウン社製のDACチップを8個も搭載している! いい音のためにはコストを無視する潔さ! なお、制震のため天板になんと、はぐれメタル(!)を1匹飼っている。)

アンプ NFJ D-302J+
 (フルデジタル中華アンプを国産メーカーが作るとこうなる。アンプICはSTMicroelectronics製「STA369BW」。こんなに小さいのに、入力がアナログRCAに光/同軸/USB のデジタル3系統を加えた驚異の4系統。音源に忠実なスッキリ系美音アンプ。)

グライコ Kenwood GE-77E
 (リスニングに萌えるために必須のスペアナ付きグライコ。最近スペアナなしだと心がときめかなくなってきている。ヒスノイズが乗るためホントにスペアナ運用。ハードオフで300円で購入)

スピーカー ONKYO D-152E
 (写ってないが、3組持ってるオンキョーの小型スピーカーのうち最も重低音の出る機種。現行機種同様のバスレフダクトの効果は強力。)

その他 ハヤミの中型用スピーカースタンド、ベルデンのスピーカーケーブル(定番の8470ではなく8460)など

そして、とどめは必殺のバーコーナー(笑)



白州やフロムザバレル、宮城峡などのジャパニーズ。
ボウモアなどのアイリッシュ。
ワイルドターキー、I.Wハーパーなどのバーボン。
十勝ブランデーやカルヴァドス(アップルブランデー)。
ヴィンテージのマデイラ・ワイン(テランテス1977、ブアル1982)。
仏の2級格付けシャトーの赤。(ボルドー、メドック、ブルゴーニュほか)
伊のバローロ。
独のベーレンアウスレーゼのリープフラウミルヒ。
そして、「まほろばの貴婦人」や「黒糖梅酒」(笑)などなど・・・。

酒と音楽、そしていい椅子。
いずれも我が人生に欠かせないモノたちである。


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