2020年5月6日

No.69 伝説のレノマパリス 「ジーンズにジャケット」を生んだブランド

1963年、夏から断続的に続いていたビートルズの2枚目のアルバム「With The Beatles」の収録がロンドンのアビー・ロード・スタジオで完了した10月23日、その同じ日に、海を隔てたフランス パリの16区に一件のブティックがオープンした。

 
「Boutique Renoma(ブティック レノマ)」

若干22歳のモーリス・レノマが開いたこの小さなプレタポルテ・ブティックが、その後世界のファッション界に大きな影響を与えようとは、この当時誰も思わなかったことだろう。

「ジーンズにジャケット」、今では定番のファッションだが、これはレノマパリスの一連の提案の中の偉業の一つ。
レノマ以外、それまで、誰も試そうともしなかった組み合わせである。

こうした「ドレスダウン」とも称されるさまざまな独自で先駆的なファッション界の新風は次第に注目を集め、当時のフランス大統領や人気俳優・女優、ミュージシャンなどを続々と顧客に抱えるにつれて、一躍トップブランドの仲間入りを果たしたのである。

その後、日本でも大人気となり、1980年台後半のバブル絶頂期に雑誌「anan(アンアン)」で女性が今一番欲しいブランドアンケートで第1位となったのが、このレノマパリスである。
なので、女性へのクリスマスプレゼントに、レノマ、ティファニー、ゲランの3択で大いに悩んだバブル紳士も当時は星の数ほどいたはず(笑)

余談になるが就職して間もないころ(ちょうどバブル最末期と言うか崩壊前夜に近い頃)、ゲランの「ミツコ」を愛用するホステスさんと「この香りいいよね~」と何度か香水の話で盛り上がったら、新品の「夜間飛行」のトワレ(小さかったのでパルファムだったかも?)を1本いただいたことがある。お客さんからのプレゼントでいっぱいもらって腐るほどあるからって(笑)
えっ?こんな高級品もらっていいの??みたいな。
「バブル」ってこんなエピソードばっかりのほんと凄い時代だったと思う・・・

もっとも女性用なのでルーム用にしか使用できなかったのだが(泣)
 
●大き目のセカンドバッグ

レノマのセカンドバッグで約30年近く前の物。だいぶくたっとしてくたびれているが角がわずかにスレてる以外に不具合はなく、まだまだ現役である。
そういえば大学のテニスサークルのお洒落番長的な先輩(Y田先輩!)がこのデザインのスクエアタイプ(ほかのブランドにはない独特のサイズ感)のセカンドバッグを持っていたのを思い出す・・・

キャメル色のシボ革に三角形のメタルプレートがバブル当時のレノマのブランドアイコン。今でも超カッコいいと思う。
このシボ革、コーティング済みのため、雨にも強く少々ラフに取り扱っても傷が付きにくい。

内部には、「MADE IN FRANCE」記載のプレートが。だってパリスですから。
内部はこんな感じで、革感あふれるゴージャスなつくり。

今でこそ、「レノマ」って言うといまいちなブランドと認知されていて、「U・〇レノマ」とか「レノマH〇〇M」とかデパートで山積み販売されているが、流行当時の物はそれらとはデザインとかクオリティとかの面でまったくの別物。
レノマって、ライセンス事業を展開しすぎてブランド価値を損なった悪い例ではないかと思う。

その点、ルイ・ヴィトンやティファニーなどはブランド価値を毀損しない絶妙のサプライコントロールをしている。
逆にロレックスの流通管理、あれはやりすぎ。

あれほどの人気を博したレノマパリスなら、ブランドを安売りせずにハイブランド路線へと舵を切ることも可能だったのでは、と思うが、モーリス・レノマ本人がそれを潔しとしなかったのか。
なにせ「プレタポルテ」なのだから。
庶民に手が届かなくなっては意味がない、そう思ったのかもしれない。

●ボストンバッグ

大は小を兼ねると本気で思って購入したもののやや大きすぎた。横幅が約58cmあるのでトランク並みの容量。
ある時、出張の際、ビジネスホテルのチェックイン時にフロントで同年代のバーバリーのボストンを持った方から「レノマもいいですね」と声を掛けられて、しばしバッグ談義を交わしたことがある。

こちらもプレートに錆び等はなく、まだまだ綺麗。
「持ち手」は実は本体以上に壊れやすい箇所なのだが、持ち手に糸のほつれや擦り切れはない。レノマ本店のギャランティカードが付くだけあって糸や革の材質・縫製ともにしっかりしている。
マチもたっぷりあるので本当にでかい。その後別に1泊用の小さめのドラムバッグを買ったので、このボストン、現役なのだが出番は極めて少なくなっている。
内部はセカンドバッグと同じ意匠。
つくづく豪華と思う。

●2代目セカンドバッグ

セカンドバッグがくたびれてきたこともあり、あっブランドデザインが変更になってる!とか思って衝動買い。
でも冷静に考えれば、後継品なのか別シリーズなのかは正確には不明である。
こちらも傷が付きにくいので特に何の気使いもせずに普段使い中。

マチが広いのだがユニークな3室構造で一つひとつのコンパートメントは小さめ。持ち歩く小物が多いので重宝している。
同じシボ革だがバブル期の物とはまったく別の見た目と質感。かつての一目で「レノマ」と分かるブランドアイコンが失われた感じ。
メタルプレートも金色の小型のポリッシュ仕上げされたもの。サイズが小さいので、上品なのかもしれないが三角のメタルプレートに比べると押しは完全に弱くなった。

内部には金属プレートでなく革タグ。「MADE IN FRANCE」の表記がないので海外生産品か。すでにこのころライセンス商法の負の面が出てきているようである。
内部は布張り。布の中でも上質なビロード地なのが救いではあるが、明らかなコストダウンで高級感が大きくスポイルされている。

総合的に見て、キャメル色のバブル期の物の後継シリーズのような気がする。コストダウンが見られ、押しが弱く洗練さを狙うデザインなど。

●小型のクラッチバッグ

これは2018年頃にメルカリでほぼデッドストック品として購入。ギャランティカードが無く製造年が不明なのだが、デザイン意匠から1980年代中頃~1990年代頃の製品ではと推察される
ハンドルを内部にそのまま押し込んで収納できる。
革は新品同様でスレ・傷が皆無、コーナーに付けられたメタルプレートもほぼ無傷。
この年代の品としては奇跡的な美品。

構造上、内部には金属プレートではなく焼印で「MADE IN FRANCE」が記載。
肝心の機能性だが・・・
フタがマグネット式のカブセ(被せ)なので腕時計を近づけないよう注意が必要。
サイズは写真のとおり文庫本がまったく入らず実用性はほぼゼロ(泣)
何に使ってやろうか、と買って数年たつが現在もまだ思案中である。

レノマパリスの盛衰を経済学的に分析すると、
「魅力的な製品開発やマーケティング戦略が当たって、ヴェブレン効果により一気に多くの人が製品を求めるようになったが、過度にライセンス供与事業に依存しすぎたためスノッブ効果が発生し、レノマパリスの製品の効用が著しく低下、製品を求める人は急激に減少した」
のような感じだろうか。
ハーヴェイ・ライベンシュタインが1950年代の論文の中で、まるでレノマの盛衰を予言していたかのようである。

toskaniniは元峠族なのだが、確かに1990年代の前半ごろ、知り合いの日産プリメーラのシフトノブが「レノマ製」に交換されていたの見てビックリしたことがある。
それ以外にも、レノマのカップセットなどを贈答品売り場で見たこともある。
元々レノマって「ブティック」なのに。
シフトノブやティーカップをブティックの職人さんは決して作らないのに。
ライセンスを取得した企業が何でもレノマのマークを付けさえすれば売れるとしていかに無節操な製品展開をしたのかがわかるエピソードである。

以上、過去形でしか語れないのがとても悔しいのだが、一人でも多くの人に、バブルの頃のレノマパリスの最強っぷりが届けばいいなと。

いまだに「レノマパリス」のセカンドバッグを小脇に挟んで出掛ける身としては心からそう思う。


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