もちろん、tskがウイスキー好きと知っての、とても気の利いたプレゼントである。
バカラ(Baccarat)のクリスタルグラスである。
モデル名は「アルルカン」。フランス語で道化師のことだそうな。
(道化師の服の菱型模様がタンブラー下部のカット意匠の由来だとか)
いただいたその日に、このバカラでとっておきのウイスキーを飲んだ。
本当に特別のときにしかキャップを回さない、ニッカの余市醸造所樽出しの原酒。
約20年前に北海道に出張した際、時間が空いて、醸造所へ立ち寄り買ったもののうちの1本。
市販用の水薄め前のものなのでアルコール度数が61度もある。
(ちなみに市販のウィスキーのアルコール度数は通常43度前後である)
ミネラルウォーターでトワイスアップ(水:酒=1:1)し、まずはノンアイスで飲んだ。
唇にあたるカーブと厚みが柔らかい。
喉をこくんと鳴らして一口目を嚥下する。
口の中にバニラのようなフレーバーが拡がり、鼻の奥にはスモークサーモンのようなアロマが漂う。
喉にはかすかに焼けつくような刺激。
思わず、グラスの輝きを見つめながら、無声音で「ん~っ」、と叫んでしまう。
次は、ロックアイスを二欠けほどタンブラーに落としてから堪能。
氷が溶けた分だけマイルドに、しかし、温度が下がった分だけ怜悧に、そしてクールに喉を癒す。
まさに、至福の一時。黄金の時間。
バカラはフランス王室にも愛された雲上ブランドである。
正直にすごいと思った。
実はクリスタルの輝きの要素は、透明な材質以外だとカットのエッジによるところが大きい。
このバカラ、輝きが強いのに、エッジが鋭くないのである。
いや、逆か、「エッジが鋭くないのに、輝きがすごい」の方が分かりやすいかもしれない。
プレゼントをくれた彼女が、購入の時、「このモデルだと今店には3点ありますが、手作りで微妙にすべて違うので、お好きなものを」と店員さんに言われたそうだ。
「HM(ハンドメイド)」いわゆる手作り品でしか成し得ない凄さ、がよく分かる。
手で持った時にカット部分が手に押し付けられてもまったく痛くない。
とても柔らかい手触りなのだ。
実は、tskは日本の皇室とも取引のある「カガミ」製の国産クリスタルタンブラーを所有しているのだが・・・
こちらは明らかに「NC(数値制御)」モノ、いわゆる最先端の工業製品、コンピューター制御のマシン彫りである。複雑で精緻なカットでキラキラ感超絶だが、手に持つと相当痛い。
本当に「痛い」のである。
だからと言ってエッジの角を落とすと輝きがでない。
特にファイヤーと呼ばれる光の当たり加減により現れる虹色のきらめきはまったく期待できなくなってしまう。
バカラのグラスは製法(仕上げ)が謎である、角が立っていないのに、この輝き。
この二律背反の命題を高度のバランスで両立させる匠の技がバカラの工房にはきっとあるのだろう。
職人技おそるべし、である。
真似しようと思っても簡単にはできないからこその雲上ブランドなんだろうと思うのだ。
さすが香水の「ゲラン(GUERLAIN)」や宝石の「ショーメ(Chaumet)」などと並ぶフランス王室御用達の老舗店である。
そういう意味では、ドイツのニーシング級のハイブランドである。
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