2021年4月29日

No.81 ジョッターは祖父の思い出とともに

愛用しているパーカーのジョッターである。シリーズは基本のコアライン。
3本とも自分で買ったもので祖父の形見ではない。


左から
黒 1985年USA製 シャープ 
刻印「Made in USA ⅢT」
ブルー 2019年FRANCE製 シャープ 同「FRANCE N」
ウォーターブルー 2017年FRANCE製 ボール 同「FRANCE P」 

パーカーの筆記具には軸に製造国と製造年と製造月が分かるよう並んで小さく刻印されており製造年の見方は次のとおり。「品質、ペン(QUALITYPEN)」の文字に製造年が割り振られている。
また、製造月はローマ数字で製造されたのが第何四半期なのかがわかるようになっている。
(製造年)
 Q → 1980、1990、2000、2010、2020
 U → 1981、1991、2001、2011、2021
 A → 1982、1992、2002、2012
 L → 1983、1993、2003、2013
 I → 1984、1994、2004、2014
 T → 1985、1995、2005、2015
 Y → 1986、1996、2006、2016
 P → 1987、1997、2007、2017
 E → 1988、1998、2008、2018
 N → 1989、1999、2009、2019
(製造月)
 Ⅲ  → 1~3月
 Ⅱ  → 4~6月
 Ⅰ  → 7~9月
 なし → 10~12月

黒のジョッターシャープペンは大学2年の時に購入以来の愛用品で、現在もほぼ毎日仕事で使用しており、ざっと30数年のヘビロテとなる。
安定のカチカチを刻み続け、これまで故障らしい故障が一度もないのがすごい。
まさにプロのハードな使用にも耐える最強筆記具である。

パーカー
の創業は1888年。しかし、アメリカ人の創業者一族が経営から離れたのをきっかけに、1987年に本社をイギリスに移し英国企業となった。その後2000年にアメリカの大手筆記具ブランドグループに買収され現在に至る。2009年にアメリカとイギリスの工場が閉鎖されて以降の主な生産拠点はフランスとなっている。

2015年にジョッターシリーズはデザインが変更されたのだが、変更の一番分かりやすい部分が
ジョッターのデザインの象徴とも言える矢羽モチーフのクリップ。
メタルへの精緻な彫込みでジャケットの胸ポケットや内ポケットに挿すと、さり気ないアピールになるのも矢羽クリップの特徴である。



左が2015年以降の新デザイン、右が旧デザイン。もともとは戦闘機、翼、羽などがモチーフだったらしいのだがリデザインにより「矢印」感がより強調されている。

そして、胸元に挿した状態でも触るだけで容易にシャープペンとボールペンを識別できるようシャープペンにはキャップ部分の横に3本の筋模様の彫り込みが施されている。他方ボールペンは先細りのツルッとした形状になっている。
(シャンプーとリンスのボトルキャップの形状違いと同じ発想)


左がシャープペンで右がボールペン。
本当にキャップを指でつまんだらすぐ判別できる。

また、最初期のUSA製造品のみキャップ先端が凹型になっており、ブランドマークが筋彫りされている。
その後のイギリス製造品、フランス製造品はやや凸面ぎみのフラットトップである。
アメリカ工場はすでに閉鎖されているので、新品で買える現行品はすべてフラットトップである。


右がUSA製造のシャープペン。写真では見にくいがブランドマークの刻印も施されている。左は現行のフランス製造品。

toskaniniとジョッターの出会いには母方の祖父が関係している。
母方の祖父は明治生まれの実業家だったが、1927年の金融恐慌と1930年の昭和恐慌のとき事業に失敗したらしい。その後、失意のうちに伊達市霊山町大石の自らの生家へ戻り、豆腐屋を始め、豆腐作りを生業として生涯を終えた。
かつては、伊達市保原町大田出身の実業家、織田大蔵(おだだいぞう)氏のビジネスパートナーだったという。
戦後しばらくして、母の高校入学に際し、保証人になってくれるよう頼むため祖父と母と二人で織田家の邸宅に行ったとき、当時はどこの家にもないようなケーキが出てきて初めての味に感激して、何をしゃべってきたのか全然覚えていないと母から聞いたことがある。
そして、入学してからは兄たちの場合と同様、学期が終わる毎に通信簿を大蔵氏に見せにいくのが習わしで、その際、大蔵氏の奥様が必ず仙台の九重本舗の「九重」のお湯割りをだしてくださるのだが、高校生にとってはとても甘過ぎて残さず飲むのが大変だった、との思い出話を聞いたことがある。
母や伯父たちが通った織田邸は「雲竜閣」と名付けられた豪邸だったと伝わっており、その邸宅跡には、現在スーパーの「西友保原店」が建っている。
織田大蔵氏は福島交通のワンマン社長で有名。東北地方の長者番付(所得税納税額のランキング)で第一位になったこともある。
ずっと不思議だったのだが、福島市には「福島交通」、いわき市には「常磐交通」、会津若松市には「会津乗合」があるのになんで最も大きな郡山市にバス会社がないんだろうと。と思ったらやっぱり、郡山市でバス会社設立の動きがあったのだそう、だけど織田氏が、当時の運輸大臣である中曽根康弘を恫喝してその話を潰してしまったらしい。
当時相当な力を持つスケールの大きな財界人であったことは間違いないのだが、福島交通の強引なワンマン経営、労使交渉では組合側に相当厳しく当たったと伝えられていて、「労働者弾圧」のイメージが色濃く残ってしまい地元でも「偉人」扱いとはなっていないのが残念である。
しかし、彼は、小針暦二により福島交通を追われた後、太陽商事グループ(現在のマクサムグループ)を創業しているのだから傑出した商才に恵まれた人物であったことは間違いない。

彼の語録は本になっているのだが、その一つに「社員の採用では、優秀な者と成績の悪い者は採用するな。中間の成績の者だけを採用せよ」というものがある。理由は「自分が追い越されては困るから」と言うもの(笑)。
優秀な応募者は真っ先に落とせと!?
なんとも、正直で人間臭い考え方ではないか。けだし名言である。
仕事で社員の採用面接官をやったときにふとこの言葉が頭に浮かんできてどうにも困ったことがある(笑)。

織田大蔵氏の話はこのぐらいにして、話を戻すと、toskaniniが小学1年生のときにその祖父が亡くなり、母に連れられて通夜から葬式、あと仕舞まで数日間母の生家に滞在した。
腹違いも含め7人の息子、娘で形見分けをすることになって、母が分け与えられたものの中に一つかみの筆記用具たちがあったのだ。
筆記体の「Sailar」の万年筆や、インクにつける「つけペン」が何本か、セルロイド製の万年筆が何本か、そしてジョッターがあった。軸色が黒のボールペンとシャープペンの揃いが。
当然、当時小学生なので、筆記具などに興味もなく、ブランドや名前を知るのはずっとあとになるのだが、なぜか、ジョッターのスリムでエレガントなフォルム、矢羽のクリップ、カチカチと小気味よく動く精緻なメカニズムの記憶だけは鮮明に刷り込まれたのだ。

時が流れて、大学生となり、ジョッターがたしか雑誌「ポパイ」の筆記具特集で、「新聞記者の愛用率が圧倒的なプロユースのすごいペン!」、「実用性ナンバーワン」、「永遠のスタンダード」、「ガチで惚れ込める一本」、「一生使い倒せるほど頑丈!」(一部不正確!スマソ)みたいな紹介のされ方をしていたのを覚えている。

安い筆記具なのに入ってる箱がすごいカッコいいのも大事な萌え要素(笑)である。
カッコ良すぎる!

なんと、誇らしげに英国王室御用達(ロイヤル・ワラント)の証であるエリザベス女王とチャールズ皇太子の紋章がマーキングされてて気分はもう・・・「(箱だけ)ロイヤル!!」

新旧の矢羽根クリップどちらも素敵!

数本のジョッターと数本の万年筆、久しく手元の筆記具はこれだけである。
文房具で何百円の使い捨て筆記用具を買うよりずっとエコなのも気に入っている。
まさに「愛用」の言葉がピッタリな存在なのである。

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