もう手元にはない、思い出の一振り。
たまに取り出しては刃文を眺め、独りニヤニヤしていたのを思い出す。
佐治武士作 和式ナイフ 侍Ⅱ
刃 材:白紙多層鋼(ダマスカス仕上)
拵 え:藤巻本竹鞘 紐留め
保存袋:元箱、正絹保存袋付き
刃仕上:両刃造り
寸法及び重量
全長:約250mm
刃長:約140mm
身厚:約4mm
刃巾:約25mm
重さ:約135g
持ち手:竹に藤巻
切 銘:「佐治」
佐治武士氏の造る「侍」シリーズは最も日本刀テイストが強く香る和式ナイフだろう。
英語だと 「king of "tanto"」
日本語なら さしずめ 「和式ナイフの頂点」といったところか。
和式ナイフが日本刀に比べ、最も優れる点は、個人的に「雑に扱える」点ではないかと常々思っている。
何もわざと普段使いにしろとか、適当に放置しろとか、手入れなんかいらないと言いたいわけではなく、刃物用鋼材をベースにした刃は、和鉄でできた本物の日本刀に比べ、耐久性、対錆性、メインテナンス性、研ぎやすさ、で大きく勝るため、ことさら神経質で繊細な取り扱いを要さない。
そこが日常、コレクションに向かう心がけとして低ハードルだ、ということを言いたいのである。
もっとも、和鉄に比べれば十分錆に強いが、多くの西洋ナイフに使用されるステンレス鋼材(440C等)に比べれば当然に錆耐性は劣るので注意が必要である。
侍が手元に届いたときまず思ったのは、「研ぎが甘いな」と。
切れ味はそう悪くないのだが、「くっ、切れる!」といったレベルには程遠い刃付け。
toskaniniとしては外観どおりの「シャープな切れ味」がどうしても欲しくて、数年前に地元の刃物専門店へ研ぎを依頼したのである。
片刃なら自分でも鏡面研ぎも出来るのだが、両刃となると刃付けは格段に難しくなるため、プロに依頼することにしたのだ。
「美しさ重視の鏡面研ぎと切れ味重視の研ぎのどっちにしますか? 綺麗にして飾れるナイフだからどっちも有りですね」と店主に聞かれ、迷わず「もちろん、村正レベルで!」と即答し爆笑されたエピソードが懐かしい。
結果、腕の産毛が剃れるレベルの刃付けとなり用と美の両方を兼ね備えた至極のマイコレクションズ入りとなったのであった。
侍シリーズは、侍Ⅰが下がり刃、侍Ⅱが直刃、侍Ⅲが反り刃、と違う形状になっており、この個体は直刃で、いわゆる棟(「峰」とも言う)が直線のタイプ。
個人的に、短刀のプロポーションが最も優美に見える形だと思う。
そして、氏は現在、包丁専業鍛冶としてご活躍されていて、過去に製作した和式ナイフは在庫限り扱い、ネットでは多くが「品切れ」状態、入手困難のようである。
この侍シリーズは相当以前に製作が終了しているため、それらの中でも特に入手が困難ではないかと思われる。
欲しい人は、ヤフオクやメルカリでぜひ根気強く探して欲しい。
(かくゆう私もメルカリ経由で「侍」を他人にお譲りした一人である)
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